突入電流によるブレーカー誤動作はなぜ起きる?選定ポイントを詳しく解説

2025/06/03

突入電流によるブレーカー誤動作はなぜ起きる?選定ポイントを詳しく解説

電源を入れた瞬間に、想像以上の電流が流れることがあります。

これが「突入電流」と呼ばれる現象です。

普段の数倍にも達するこの一瞬の電流は、誤ってブレーカーを動作させてしまい、装置の停止やラインのトラブルを引き起こす原因となります。

特に電動機やスイッチング電源、変圧器などを扱う現場では、突入電流の正しい理解と対策が欠かせません。

本記事では、突入電流がなぜ発生するのか、どのような機器で起きやすいのか、そしてブレーカーの選定における注意点を、分かりやすく丁寧に解説します。

突入電流に悩まされている方はもちろん、設計時に気をつけておきたいポイントを確認したい方も、ぜひ最後までご覧ください。

突入電流の基礎知識とリスク

突入電流とは何か

電源を入れた瞬間に普段の数倍もの電流が一気に流れ込む現象を突入電流と呼びます。

原因はコンデンサの急速充電や変圧器の磁束立ち上がりなどにあり、時間は短くてもピーク値は非常に高くなります。

そのため、定格電流だけを頼りにブレーカーを選ぶと誤遮断が起こり、装置全体が停止する恐れがあります。

まずは「最大値」と「持続時間」を把握し、保護機器が耐えられるかを確認することが肝心です。

突入電流が発生する機器とその特徴

変圧器は磁束がゼロでない状態で投入されると定格の10倍近い電流が流れる場合があります。

電動機は静止状態から回転を始める瞬間に大きな始動電流が必要で、誘導機でも6倍程度が目安です。

スイッチング電源では入力側コンデンサの充電がピークの主因で、数百マイクロ秒のうちに十数倍の電流が走ります。

いずれも「短時間でも高い電流」が共通点であり、ピークに合わせた対策が欠かせません。

突入電流による主なリスク

大きな瞬間電流は配線加熱や電子部品のストレスとなり、想定寿命を縮める原因になります。

突入時の電圧降下で同じ盤内の制御機器がリセットし、不意のライン停止につながるケースもあります。

さらに、ブレーカーが短絡と勘違いして遮断すると、復旧作業に時間がかかり生産ロスが拡大します。

ピーク値を正しく測定し、保護カーブと照合することでこれらのリスクは大幅に減らせます。

電子部品の破損や劣化

半導体素子や電解コンデンサは瞬間的な高電流で内部温度が急上昇し、繰り返すうちに接合部の金属疲労や電解液の蒸発が進行します。

特に整流ダイオードはサージ電流の影響を受けやすく、突入電流が安全動作領域を超えると短絡故障へ直結します。

一方で、適切な抑制素子や高ピーク耐量部品を採用すれば寿命延伸は十分可能です。

部品コストより設備停止コストのほうが高いことを意識し、初期段階で余裕を盛り込む視点が重要です。

電圧低下による他機器への影響

突入電流は系統インピーダンスに比例して電圧降下を生むため、同じ系統にぶら下がるPLCやセンサが一時的に電源を失うことがあります。

結果として制御がリセットされ、製造ラインが予期せず停止する例は珍しくありません。

大容量負荷を段階起動する、制御電源を独立回路に分けるといった設計で電圧ドロップを抑えることができます。

わずかな追加配線で大きなトラブルを防げるため、立上げシーケンスの整理は必須です。

ブレーカーの誤動作や不要な遮断

一般的なB特性やC特性のブレーカーは定格の3〜5倍で瞬時動作するため、突入電流がその範囲に入ると短絡と誤認して遮断します。

いったん遮断されると再投入のたびに再び突入電流が発生し、連続トリップの負のループにはまりがちです。

高インスタント品やD特性を選ぶ、もしくは突入抑制回路を前段に入れることで誤動作はほぼ解消できます。

現場の復旧工数を減らすためにも、設計時点から誤遮断ゼロを目指すことが肝要です。

ブレーカーの動作特性と突入電流の関係

ブレーカーの基本的な動作特性

ブレーカーは「熱動作でゆっくり切る」時延要素と「電磁力で瞬時に切る」瞬時要素の2段構えで回路を守ります。

時延は配線加熱を防ぎ、瞬時は短絡エネルギを抑える役割です。

突入電流が瞬時要素をかすめると不要遮断を招くため、ピーク値がどちらの領域に入るか見極めることが選定の第一歩になります。

カタログに載るI-t曲線と実際の波形を重ね、余裕を確認するプロセスが欠かせません。

瞬時引きはずしと時延引きはずしの違い

瞬時引きはずしは数ミリ秒で遮断できる反面、余裕を持たせすぎると短絡保護が甘くなるジレンマがあります。

逆に時延引きはずしは動作まで猶予があるため、始動電流や突入電流はやり過ごしやすい特長があります。

負荷の立上げ時間を把握し「どちらで保護すべきか」を決める発想がトラブル低減につながります。

選定時は始動波形と曲線の交差点を確認し、瞬時・時延のバランスを最適化しましょう。

突入電流とブレーカーの誤動作の関係

ピーク電流が瞬時領域を超えるとブレーカーは短絡と判断して遮断しますが、実際は正常起動なので再投入しても症状が繰り返されます。

このとき現場担当者は「壊れているのか」と混乱しやすく、停止時間が長引く原因となります。

高インスタント品で瞬時領域を右へずらせばピークを逃がせ、不要遮断を一気に解消できる場合が多いです。

波形測定と曲線照合で「どこにぶつかっているか」を視覚化することが最短の改善策です。

突入電流がブレーカーの動作特性を超える場合

例えば変圧器励磁インラッシュではピークが定格の12倍に達し、一般的なC特性の瞬時領域をあっさり越えてしまいます。

このときブレーカーは数ミリ秒で遮断し、装置は立ち上がる前に電源断となります。

D特性や高インストタイプなら瞬時領域が高く設定されているため、同じ波形でもトリップを回避できます。

ピーク値・持続時間・曲線の重なりを確認し、「超えるなら特性変更」が鉄則です。

誤動作を防ぐためのブレーカー選定のポイント

対策は「I-t曲線チェック→特性変更→必要なら抑制素子追加」が基本手順です。

まず現場やデータシートでピーク値を入手し、曲線に当てはめて瞬時領域を外れているか確かめます。

外れていなければD特性や高インストタイプを検討し、上位遮断器との保護協調も忘れずに確認します。

それでも余裕が足りなければ、NTCサーミスタや投入同期リレーでピークを下げる二段構えが確実です。

突入電流に対応したブレーカーの選定方法

定格電流と突入電流のバランス

ブレーカーは定格電流に合わせるのが原則ですが、突入電流だけを見て大きくしすぎると配線やコストが無駄に増えます。

目安は「定格は負荷電流に少し余裕、ピークは瞬時領域から外す」ことです。

ピークが高い場合は抑制素子で下げ、ブレーカーは定格寄りに戻すとバランスが取れます。

これにより安全性を保ちながら設備コストと省スペースを両立できます。

瞬時引きはずし電流値の確認方法

I-t曲線の垂直部分が瞬時領域で、横軸が時間、縦軸が倍電流を示します。

実測またはデータシートの最大突入電流を点で示し、縦線より左側に入っていないか確認します。

入っている場合は特性変更か抑制素子追加で右側へ追いやるイメージです。

簡易的にはメーカー値に安全係数1.2〜1.5を掛け、同じ工程で余裕を見ておくと安心です。

高インストブレーカーの特徴と適用例

高インスタントブレーカーは瞬時引きはずし値が高く設定され、突入電流でトリップしにくい点が最大の利点です。

変圧器一次側、UPS入力、大型モータなど、ピークが定格の10倍程度になる回路で効果を発揮します。

ただし短絡時の遮断容量も満たす必要があるため、上位遮断器との協調計算を忘れないようにしましょう。

適切に使えば「誤トリップゼロ」と「短絡保護」を両立できます。

変圧器一次側用ブレーカーの選定基準

変圧器の励磁インラッシュは投入位相で大きく変動するため、最悪条件で定格の10〜14倍を想定します。

一般的なB・C特性では瞬時領域に入るため、D特性または高インスタント型を優先します。

短絡容量と遮断容量の差を確保し、さらに投入同期リレーでゼロクロス投入すればピークを約半分にできます。

これらを組み合わせることで、小型ブレーカーでも誤遮断ゼロを実現可能です。

電動機始動時の突入電流対策

直入れ始動では始動電流が定格の6〜7倍になりますが、ソフトスタータやインバータを用いれば40%以上削減できます。

ブレーカーはモータ定格の1.1〜1.3倍で選定し、瞬時領域を外すことで不要遮断を防げます。

保護協調を取るために時延要素を始動時間より長く設定し、欠相・過負荷も一体で守れるモータ保護型MCCBが便利です。

ピークカットと保護協調を両立することで、安定始動と省スペースを実現できます。

突入電流対策の具体的な方法

NTCサーミスタの利用

NTCサーミスタは常温で高抵抗、自己発熱で低抵抗になる性質を生かし、投入直後の電流だけをうまく絞ります。

安価で小型なのでスイッチング電源や充電器に最適です。

ただし連続投入が多い用途では冷える前に再投入すると抵抗が下がらず、発熱リスクがあるため放熱設計が必須です。

放熱環境を整え、投入間隔を確保すれば安全に使えます。

サイリスタ方式による突入電流制限

サイリスタ方式は位相をずらして電圧を徐々に上げるため、突入電流を1/3以下に抑えられます。

大容量負荷でも効果が大きく、変圧器やヒータ系統で実績があります。

一方で高調波が増えるため、フィルタやPFC回路を組み合わせて電源品質を保つ配慮が必要です。

初期コストは上がりますが、誤遮断ゼロと長寿命化で十分回収できます。

メタルクラッド抵抗器の活用

メタルクラッド抵抗器は短時間に大電力を吸収でき、投入後にリレーでバイパスすることでピークだけを削減します。

アルミケースで放熱性が高く、耐環境性にも優れるため配電盤内で扱いやすい部品です。

抵抗値は目標電流から逆算し、パルス耐量曲線に余裕があるか必ず確認しましょう。

タイマー設定を適切に行えば、発熱リスクを抑えつつピークカットが実現できます。

抵抗値と定格電力の選定ポイント

抵抗値は「投入電圧 ÷ 希望電流減少量」で算出し、熱エネルギE=I²Rtが耐量以内かチェックします。

単発過負荷曲線と投入頻度を考慮し、余裕率1.5倍以上を取ると長期信頼性が向上します。

放熱面はアルミケース全面で行うため、盤底面と密着させ、場合によってはシリコングリスを塗布します。

温度上昇が高い場合はファン追加で50 ℃以下に抑えると安全です。

回路への組み込み方法と注意点

抵抗器を主幹遮断器と負荷の間に直列挿入し、起動が終わったらタイマーリレーで抵抗を短絡バイパスします。

故障時は開放モードで安全側に倒れるため、上位遮断器と協調を取ることが大切です。

高温部品なので保護カバーを付け、配線には耐熱ケーブルを使うと作業者と設備を守れます。

設計段階から交換スペースと放熱経路を確保すればメンテナンスも容易です。

ブレーカー選定時の注意事項と実践例

トランス一次側のブレーカー選定

励磁インラッシュは位相次第で大きく変わるため、最悪条件のピークで評価することが必須です。

D特性や高インスタント型を選び、投入同期リレーを使えば誤遮断はほぼゼロにできます。

上位遮断器の遮断容量と協調を取り、短絡時は安全に切れるかも合わせて確認しましょう。

こうした手順により、コストと信頼性のバランスが取れたシステムになります。

電動機の始動電流を考慮したブレーカー選定

ソフトスタータやインバータを併用すれば始動電流を大きく下げられ、ブレーカーは定格寄りの容量で済みます。

ブレーカー曲線と始動波形を重ね、瞬時領域に入らないかを確認することがポイントです。

モータ保護型MCCBなら過負荷・欠相もまとめて守れるため、盤スペースを圧縮できます。

スターデルタやVFDとの組み合わせで、立上げ安定と保護協調が両立します。

スイッチング電源の突入電流とブレーカーの関係

大容量スイッチング電源は入力コンデンサ充電が主因でピークが高く、コンパクト盤では誤遮断の定番トラブルです。

NTCサーミスタを配置し、複数台なら投入順序をディレイさせるとピークを分散できます。

ピークを抑えれば、ブレーカーは定格電流+αで選べるためスペースとコストが削減されます。

試運転時に波形を測定し、曲線と照合することで安心して運用開始できます。

製品カタログの突入電流特性の確認方法

カタログにはピーク値と立上がり時間が載っているので、ブレーカーカーブと並べて見るのが基本です。

測定条件(電源電圧・周囲温度)と自社環境が違う場合は補正係数を掛けて評価してください。

波形形状も重要で、鋭角なパルスなのか、半波整流型なのかで対策部品が変わります。

数値だけでなくグラフ全体を見て判断するとミスを防げます。

実際の運用におけるブレーカーの選定案

実例として、15 kVAトランス一次側にD特性MCCBを採用し、投入同期リレーでゼロクロス投入した結果、誤遮断ゼロを実現しました。

また、3 kWスイッチング電源3台並列のシステムではNTCサーミスタ+投入ディレイでC特性20 Aブレーカーのまま安定稼働しています。

いずれも「測定→曲線照合→対策→再測定」のサイクルを守ることで、コスト増を最小限に抑えつつ高い信頼性を確保できました。

最終的には現場で波形を取って確認し、I-t曲線に当てはめる工程を欠かさないことが成功の鍵です。

まとめ

突入電流はほんの一瞬であっても、電気設備の安定運用に大きな影響を及ぼします。

そのためには、正確なピーク電流の把握と、用途に応じた適切なブレーカーの選定が欠かせません。

装置や回路の特性に合った対策を講じることで、誤遮断や設備の損傷を未然に防ぐことができます。

今回の記事を通じて、突入電流の基本とそのリスク、ブレーカーの動作特性への理解を深めることで、より安全で効率的な設計につながる一助となれば幸いです。

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    この記事を書いた会社

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